内村 鑑三『代表的日本人』(岩波文庫)

 「最も尊敬する日本人は誰ですか」

 米国のケネディー大統領は日本人記者からの質問を受けた。その際、ケネディー大統領は上杉鷹山の名をあげた。多くの日本人記者たちは当惑した。何故なら、彼らは上杉鷹山を知らなかったからである。

彼が上杉鷹山の存在を知っていたのは偶然ではない。彼が『代表的日本人』を熟読していたからに他らない。

 本書は日本という国を紹介するために英語で書かれた著作である。明治維新以後、急激な近代化を遂げた日本人とは何者なのかを訝しんでいたヨーロッパ諸国で広く読まれた。

 内村鑑三が代表的日本人として取り上げるのが、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮の五名である。 本書が面白いのは、簡潔な人物伝でありながら、興味深い逸話が散りばめられているからであろう。

 西郷隆盛は清貧の優れた武士であり、明治維新は彼の存在がなければ成し遂げられなかったとし、西郷こそが明治維新の精神そのものに他ならなかったと評している。西郷の逸話で興味深いのは、彼が友人の家を訪問したときの件である。彼は家を訪問しても、決して彼自身から声をかけずに、相手が気づいてくれるのを待っていたという。何故なら、西郷は他人の暮らしをかき乱したくなかったからだという。

 上杉鷹山は、その優れた行政改革に焦点があてられているる。彼は自らが先頭に立って米沢藩の行政改革に取り組んだ。多くの守旧派たちが抗う中、若き日の鷹山は命懸けで行政改革を成功させるのだ。自ら倹約に励むとともに新たな産業を興したのである。

 二宮尊徳といえば、薪を背負って本を読んだ話が有名だ。農民に学問はいらぬと考えられた時代、極貧の二宮尊徳が本を読むことは無駄なことだとされていた。だが、彼は学問を諦めなかった。学問を続け、成長した二宮尊徳は自力で荒地を沃地へと変化させることに成功する。こうして財を築いた尊徳は、次第に村興しに携わることになる。

 彼の原則は興味深い。貧しい村が存在した場合、施すことは、無意味どころか有害だという。何故なら、そうした施しは貧しい人々の自立への意志を奪うことになるからだ。尊徳は自立の重要性を説き、多くの村興しに成功した。

 中江藤樹の教えは村中の人々を感化した。藩主から預かった金をなくし、自決をしようとしている武士のもとに、男が金を戻しにやってくる。何故、盗もうと思えば、盗める金を盗まなかったと問うと、それは「中江藤樹先生の教えに反するからだ」と答えたという。

 日蓮に関しては、その凄まじい戦闘的な姿勢が「独立人」の姿勢として描かれている。新しい宗派を興した日蓮は如何なる弾圧にも非難にも挫けなかった。この闘う姿勢を見事に描いている。

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